最高裁判所第二小法廷 昭和32年(オ)477号 判決 1959年6月19日
上告人 平井綾子 外三名
被上告人 山本一義
主文
上告人平井綾子の上告を棄却する。
右上告費用は同上告人の負担とする。
その余の上告人らの上告につき、原判決を破棄し、本件を広島高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人植木昇の上告理由について。
連帯債務は、数人の債務者が同一内容の給付につき各独立に全部の給付をなすべき債務を負担しているのであり、各債務は債権の確保及び満足という共同の目的を達する手段として相互に関連結合しているが、なお、可分なること通常の金銭債務と同様である。ところで、債務者が死亡し、相続人が数人ある場合に、被相続人の金銭債務その他の可分債務は、法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継するものと解すべきであるから(大審院昭和五年(ク)第一二三六号、同年一二月四日決定、民集九巻一一一八頁、最高裁昭和二七年(オ)第一一一九号、同二九年四月八日第一小法廷判決、民集八巻八一九頁参照)、連帯債務者の一人が死亡した場合においても、その相続人らは、被相続人の債務の分割されたものを承継し、各自その承継した範囲において、本来の債務者とともに連帯債務者となると解するのが相当である。本件において、原審は挙示の証拠により、被上告人の父芳夫は、昭和二六年一二月一日上告人らの先々代幸平、先代公及び公の妻である上告人綾子を連帯債務者として金一八三、〇〇〇円を貸与したこと、甲二号証によれば、昭和二七年一二月三一日にも、同一当事者間に金九八、五〇〇円の消費貸借が成立した如くであるが、これは前記一八三、〇〇〇円に対する約定利息等を別途借入金としたものであるから、旧利息制限法の適用をうけ、一八三、〇〇〇円に対する昭和二六年一一月一日から昭和二七年一二月三一日まで年一割の割合による金一八、四五二円の範囲にかぎり、請求が許容されること(右のうち、昭和二六年一一月一日とあるのは、同年一二月一日の誤記であること明らかであり、また、原審の利息の計算にも誤りがあると認められる。)公は昭和二九年三月二三日死亡し(幸平の死亡したことも、原審において争のなかつたところであるが、原判決は、同人の債務を相続した者が何人であるかを認定していない。)上告人清士、千昭、敏子及び訴外相馬宣子の四名は、その子として公の債務を相続したこと、債権者芳夫は、本件債権を被上告人に譲渡し対抗要件を具備したことを各認定したものである。右事実によれば、幸平の債務の相続関係はこれを別として、上告人綾子及び公は被上告人に対し連帯債務を負担していたところ、公は死亡し相続が開始したというのであるから、公の債務の三分の一は上告人綾子において(但し、同人は元来全額につき連帯債務を負担しているのであるから、本件においては、この承継の結果を考慮するを要しない。)、その余の三分の二は、上告人清士、千昭、敏子及び宣子において各自四分の一すなわち公の債務の六分の一宛を承継し、かくして綾子は全額につきその余の上告人らは全額の六分の一につきそれぞれ連帯債務を負うにいたつたものである。従つて、被上告人に対し綾子は元金一八三、〇〇〇円及びこれに対する前記利息の合計額の支払義務があり、その他上告人らは、右合計額の六分の一宛の支払義務があるものといわねばならない。しかるに、原審は、上告人らはいずれもその全額につき支払義務があるものとの見解の下に、第一審判決が上告人綾子に対し金二八一、五〇〇円の三分の一、その他の上告人らに対し金二八一、五〇〇円の六分の一宛の支払を命じたのは、結局正当であるとして、上告人らの控訴を棄却したものである。それゆえ、上告人綾子は、全額につき支払義務があるとする点において、当裁判所も原審と見解を同じうすることに帰し、その上告は結局理由がないが、その他の上告人らに関する部分については、原審は連帯債務の相続に関する解釈を誤つた結果、同上告人らに対し過大の金額の支払を命じたものであつて、同上告人らの上告は理由があるというべきである。よつて、上告人綾子の上告は、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、これを棄却し、その他の上告人らの上告については、民訴四〇七条一項により、原判決を破棄し、これを広島高等裁判所に差し戻すべきものとし、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)
上告代理人植木昇の上告理由
原判決はその理由において「控訴人(上告人)綾子とその亡夫訴外平井公およびその亡夫訴外平井幸平の三名は甲第一号証記載の金十八万三千円および金一万八千四百五十二円の二口の連帯債務を負担したものと認定するを相当とする」とし更に「訴外平井幸平はかねて懇意な被控訴人(上告人)の父芳夫から利息月四分の約定で金借し昭和二十六年十二月一日現在で金十八万三千円に達したのでこれを一口にまとめ右金員を借受けたこととして甲第一号証の借用証書を芳夫に交付した」との事実を認定した上「控訴人(上告人)綾子訴外平井幸平同公の三名は連帯して被上告人に対し右二口合計金二十万一千四百五十二円を支払う義務あるところ右公は昭和二十九年三月二十三日死亡し上告人清士、千昭、敏子および訴外相馬宣子の四名はその子としてこれが相続をしたものであるが本件債務は連帯債務であつて分別の利益を有しないから未だ相続財産の分割のあつたことの認められない本件の場合にあつてはその全額につき支払義務あるものと解すべきであり第一審判決は各上告人に対し右の範囲内の金額の支払を命じているものであるから結局正当である」と判定し控訴を棄却したのである。
しかし相続人が被相続人の権利義務を相続するについてはその相続分に応じ承継するものであり相続財産の分割なきうちはその共有に属するもその持分は相続分の割合によるものであることは民法第八九六条、同第八九八条、同第八九九条、同第九〇〇条の規定に徴し明かであるその被相続人の債務が連帯債務であつても右法理を異にしないものといわねばならない、そうでなければ各相続人の利益は害され債権者に不当の利益を与え(債権者は各相続人に債権全額につき順次若くは同時に債権を行使し相続分を超えてその回収をはかることができる)当事者の合意(本件は約定連帯である)により強行規定を破ることになるのである従てすくなくとも上告人清士千昭敏子に対する判定は明かに法令違背である。
而して第一審判決の判示する各上告人の支払債務額は被上告人の債権総額に比すればその範囲内であるがその合計額においては金十八万三千円と金九万八千五百円合計金二十八万一千五百円であつて原判決が上告人等の各自被上告人に対する支払金額として判示した金十八万三千円と金一万八千四百五十二円(本計算の基礎は全然発見できない)合計金二十万一千四百五十二円を金八万四十八円超過しているのであるから控訴棄却により原判決が認定した合計金額を超過する第一審判決認容の金額につき債務名義たらしめることを相当としたのは理由に齟齬があるものというべく又不利益変更禁止の法則に違背するものである。
以上